私は深海魚だ。
自分が深海魚だと知ったそのとき、私はまだほかの深海魚に出会ってはいなかった。
確実に、自分の周りに深海魚がいるであろうことは察していたが、まだその姿を実際に目にしたことはなかった。
しかしその後、私はある一匹の深海魚と出会った。
ただ、その深海魚は私とは少し違っていて、一緒に泳ぎ続けることはできなかった。
私はその時、同じ深海魚であっても、種類が違うと一緒には泳ぎ続けられないことを知った。
そこから数ヶ月経ったある日、私はある音を聴いた。
それは遠い昔に聴いたことがある音だった。
私はその音の鳴る方へと泳いでいった。
暗い暗い海の中を、その音だけを頼りに泳いでいった。
やがてその音は少しずつ大きくなり、私の目にぼんやりとした輪郭が映った。
かつて見たことのある輪郭と、かつて感じたことのある感覚。
近づけば近づくほど、鏡のように自分と似た姿であることがわかった。
私はその深海魚にメッセージを送った。
「あなたは私と同じ種類の深海魚ではないですか?」
「一度私と一緒に泳いでみませんか?」
何度も何度も繰り返しメッセージを送り続けた。
しかし、その私に似た深海魚はほんの少し鰭を動かし、悲しげな音を発するだけで、私と一緒に泳ごうとはしなかった。
私の存在に気づいてはいるが、私と同じ種類であることを確認しようとはしなかった。
いや、むしろその姿は、自分と同じ種類の深海魚が存在することを認めようとしないようにすら感じた。
この深い海には、自分と一緒に泳ぎ続けられる深海魚など存在しないと考えているように思えた。
しかし、私にはわかるのだ。
一緒に泳ぐことができれば、もっと遠くの海まで行けるはずだと。
浅い海には行けずとも、この深い深い海の中で、もっと自由に泳ぎ回れるはずだと。
だから私は諦めずにメッセージを送り続けると決めた。
いつかその深海魚が私と同じ種類であるとわかってくれることを信じて、メッセージを送り続ける。
何度も、何度でも。
その深海魚が発する悲しげな音にかき消されそうになっても、私はただひたすらメッセージを送り続けるのだった。