エド&リーのブログ

未亡人に憧れるゴーストライター。深海魚のような仲間を探しています。結論の出ない話多めです。

コーヒーレディーはマルドロールを駆け抜けて 12 

前回の話↓

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ノイズまみれの恋

クジくんがいてもいなくても、コーヒーレディーのバイトは楽しかった。

パチンコ玉を買うカードのところに千円札が落ちてたりとか、ドル箱(パチンコ玉を入れる箱)が倒れて床がパチンコ玉だらけになってそれをみんなで集めたりとか、地下のパチンコ台を制御している部屋に入れてもらえたりとか、田舎から出てきたばかりの私にとっては初めてのことがいっぱいだった。

パチンコ屋の店員もワケありっぽい夫婦が住み込みで働いていたりとか、歌手になるのが夢で西成の安いアパートに住みながらコーヒーレディーをしている子がいたりとか、最近顔色が悪いと思ってたら妊娠して辞めちゃう子がいたりとか、まぁなんていうか、やはりパチンコ屋ならではの雑多さがあり、でも私にとってはそれが刺激的でなんだか特別な時間だった。

そして、そんな日々の中に突如登場したクジくんの存在。コーヒーレディーのバイトはそれまで以上にもっともっと楽しくなった。

クジくんはそんなに背が高くなくて、私(167cm)と同じくらいで、形容し難いが、若干長めの髪をしていた。色が白くて目が大きくて、本人は「俺は尾藤イサオに似ている」と言っていた。

クジくんは私がちょっといいなと思っていたノリムラさんと同系統の飄々としているタイプの性格だが、かなりいつもふざけていて、しょうもないことを言ったりモノマネをしたりとかして、パチンコ屋の店員さんたちにも可愛がられる存在だった。たまにふざけすぎてマネージャーやチーフに怒られたりもしていた。ただ、なんかいつもちょっと影があるというか、120%自分を出しているという感じでもなくて、ちょっと引いたようなところがあり、またそこが私にとっては魅力的であった。

「クジくんがタイプだ」ということは教育係であるウエダさんにはすでに話しており、ウエダさんも私がクジくんと同い年ということを本人に伝えていたので、私とクジくんが同い年として友達のようになるのにはそう時間はかからなかった。

どんなことを話していたかは忘れたが、コーヒーの注文が入るまでホールの隅で立って待っているときとか、クジくんと並んでホールを眺めているときに一緒に話すわずかな時間がとても楽しかった。ただ、パチンコ屋の中は玉がジャラジャラ流れる音と台から流れる電子音と、「〇〇〇番台海物語から~ラッキーフィーバースタートおめでとうございま~す!」的な館内放送と爆音BGMが混じり合いめちゃくちゃうるさいことこの上なかった。

だから、いや、そのおかげで私たちはお互い耳元で声を発するという会話方法を常にとっていた。距離が近い。それもまた私の幸福度をより一層高めるのであった。

コウノさんの家

クジくんはパチンコ屋の近くにある団地に家族と住んでいるらしかった。その頃はバリバリの就職氷河期だったので、大学に行かずクジくんのように高卒でフリーターをしている人がいてもそんなに珍しくはなかったように思う。

そして、クジくんと同じようにパチンコ屋の近くに一人暮らしをしているコウノさんという人がいた。私はコウノさんからアプローチを受けたこともあったのだが、コウノさんはニコニコ人当りのいい感じではあるものの、見るからにどう見てもヤンキーで私のタイプでは全くなかったため、そこから先に進むことはなかった。ただ、すごくいい人で、私がクジくんのことが好きということも知っていたので、ある日、「遅番終わったらみんなで俺んちで飲もうぜ」みたいな提案をしてくれた。

もちろんそのメンバーにはクジくんも含まれていた。コーヒーレディーは私ともう一人くらいいたかもしれないが、6~7人くらいでバイトが終わってからコウノさんの家に集まって、お酒を飲んでウダウダしていたと思う。

で、どういう展開でそうなったのかは覚えていないが、1人減り、2人減り、最終的には私とコウノさんとクジくんの3人が残るという展開になった。クジくんは家まで歩いて帰れるし、私もチャリで帰れるけど、多分もう夜中の2時とか3時とかで、江戸ちゃん危ないから朝までいなよ、みたいな感じになったんだと思う。

で、とりあえずもう眠いし朝まで寝ようぜみたいな感じになって、別にエロい展開には一切ならなかったが、コウノさんは自分のベッドで寝て、私とクジくんは床に並んで同じ毛布を被って寝ることになった。

私にとってはたとえコウノさんが同じ部屋にいたとしても、クジくんが横で寝てるなんて最高の状況である。大好きなクジくんが隣で寝転んでいる。ドキドキが止まらない。

コウノさんが邪魔とかそういう気持ちは全くなく、むしろヤンキーなのにエロい展開とかにもせずにこの状況を作り出してくれたコウノさんには感謝しかなかった。

私はもちろん寝られるはずなんてなかった。なんならコウノさんが寝ているのを見計らってクジくんが何かちょっかいでも出してくれないかという期待すらしていた。

でも結局朝まで何もなかった。クジくんは多分途中から寝ていたし、私も多分最後は寝ていたと思う。そのまま朝になって、私とクジくんはそれぞれ帰路についた。

私は、何もしてこなかったクジくんに対して、チャラい男ではないという確信を持ったと同時に、私はクジくんに女として見られていないのではないかという不安も覚えた。あの夜、クジくんが手でも繋いできてくれていたら結構最高の展開だったと思うが、そんな夢物語は起こらなかった。

クジくんの近くで長い時間を過ごせたという幸せを感じたと同時に、一抹の寂しさもそこにはあった。