エド&リーのブログ

未亡人に憧れるゴーストライター。深海魚のような仲間を探しています。結論の出ない話多めです。

コーヒーレディーはマルドロールを駆け抜けて⑧

前回の話↓

edoandlee.hatenablog.com

偽りのモテ期

これまでの人生の中で私にモテ期があったとすれば、コーヒーレディーだった頃だろう。ただ、実際には本当のモテ期とはいえない。私がコーヒーレディーだったから、それだけだ。

コーヒーレディーとして働き始めたその日から、何人かの男性から「彼氏いるの?」と聞かれた。当然その時はシダと付き合っていたので「いますよ」と返していたが、あれほどチヤホヤされていたのは後にも先にもあの頃しかないだろう。

ちょっと若い感じのお客さんから「彼氏いるの?」と聞かれることもあったが、パチンコ屋の従業員に聞かれることの方が圧倒的に多かった。

一番よく覚えているのはマツイさんという長身の男性で、元ホストの人だった。たしかに元ホストだっただけあってチャラさ全開な感じで、顔を合わせるたびに「かわいいわかわいい」「江戸ちゃん付き合おうよ」と言われていた。マツイさんはチャーミングな顔立ちではあったが、結構目立つ部分の歯が抜けていた。今思うとなんで歯が抜けていたのか、なんで歯を治していなかったのか謎ではあるが、歯が抜けていることがマツイさんの頭の悪さというか、何も考えてなさそうなところを象徴していた。結局最終的には店と喧嘩して辞めていった記憶があるが、マツイさんはだいぶしつこかった。

あとは、シミズさん。シミズさんは小太りな感じの人だけど優しい純朴そうな人だった。なぜかシミズさんからは早い段階から「江戸っぺ」と呼ばれていた。詳しい住所までは聞かないし教えなかったが、家が近所で同じチャリ通だった。マツイさん同様、シミズさんからも「江戸っぺ~」「江戸っぺ~」とやたら気に入れられており、シミズさんの方が早く上がっているのに私が帰る時間まで待たれていた時もあった。

こうやって書くとまるでシミズさんがストーカーのようではあるが、そういう感じの人ではなく、とにかく私と一緒に自転車で帰りたいみたいな感じだった。実際一緒に自転車で帰ったら方向がかなり近かった。そしてシミズさんはそれだけでも十分満足そうだった。ああいう人と結婚していたら幸せになれていたのかもしれない。

あとは前の方に書いた韓国人の男の子からも、早番が終わって帰ろうとしていたら従業員寮のところで声を掛けられて「部屋に寄って行かない?」と片言の日本語で誘われたこともあった。その誘い方ははにかんだような感じでとても可愛いらしかったが、一応彼氏もいたしそもそも日本語でちゃんと会話もできそうでなかったので断った。

なお、今はどういうシステムなのかよく知らないが、パチンコでは換金に足りなかった分をお菓子に変えたりするシステムがあって、お客さんからはしょっちゅうそのお菓子をもらっていた。休憩から戻ってきたらカウンターにお菓子だけが置いていあるようなことも日常茶飯事だった。

とにかくそんな感じでコーヒーレーディーはチヤホヤされた。多分コーヒーレディーの仕事が楽しかったのは私みたいなのでもチヤホヤされる環境だったからだろう。もちろんほかにも楽しいことはあったが、やはり人間チヤホヤされると気分がいいものである。

シダとの関係

コーヒーレディーの仕事が始まってほどなくして大学も夏休みに入ったので、私はほとんど毎日のようにパチンコ屋に通っていた。シダとの関係は続いていたが、おそらくシダも何かバイトをしていて、お互い日中は会えないことが多かったんだと思う。日中に会っていた記憶がほとんどない。

よく覚えているのは、やはり夕方ごろにシダが家に来て、夜は近所のファミレスで長々と喋り続けて、私の狭い部屋で朝まで過ごすという日々だった。シダとは本当に話が尽きなくて、明け方までベッドの上で話し続けていたこともよくあった。

ただ、その時は深く考えていなかったが、シダは日中会える日でも、ある曜日だけは毎週夕方近くになると必ず行く場所があるといって帰っていた。

今思えばそれが終わりの始まりだった。あの頃、私は初めての一人暮らしで、色々知らないこともまだまだあって、でもなんでも話せる彼氏がいて、バイトは楽しいし、多分私は浮かれていたんだと思う。