エド&リーのブログ

未亡人に憧れるゴーストライター。深海魚のような仲間を探しています。結論の出ない話多めです。

コーヒーレディーはマルドロールを駆け抜けて 11 

前回の話↓

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そしてアルバイトはつづく

私は映画には全く詳しくなく、そもそも同じ場所に長時間拘束されることが苦手なので、映画はそんなに見ない方なのだが、イランの名匠と呼ばれる故・アッバス・キアロスタミ監督の映画は好きだった。

その監督を知ったのは、実家にいたころBSでたまたま放送されていた「鍵」という彼が脚本を手掛けた映画を見たことがきっかけだった。今でも多分一番好きな映画といえばその「鍵」で、再び何かのチャンスがあったときに録画していた「鍵」のVHSを私は持っていた。「そして人生はつづく」という作品を録画したVHSも持っていた。

映画が好きだったシダもまた、アッバス・キアロスタミ監督の作品が好きで、私たちはその話題で盛り上がったこともあった。そして、私は貴重なその「鍵」などが録画されたVHSをシダに貸したままだった。

メールで「ビデオ返して」的なことを言ったりもしたが、返してもらえなかった。というよりは、少しずつシダを大学で見かけることが少なくなってきていて、返してもらえそうなタイミングも少なくなっていたのだった。

そんなこともありつつも季節は過ぎつつで、私は引き続き土日を中心にコーヒーレディーのバイトを続けていた。

私が彼氏と別れたという噂はたちまちパチンコ屋のホールで働く人たちにも広まった。そして、再びマツイさんやシミズさん、さらに新しく入ってきたコウノさんなどからのチャラいアプローチは復活した。

しかし、完全に人間不信に陥っていた私は、しばらくの間、あらゆる人が何か大きな嘘をついているのではないか、周りの友達も実は私に本音でなんて会話していないのではないか、といったことを考えており、新たな恋なんてしばらくしたくないと思っていてた。

そんな中でも唯一、パチンコ屋の店員さんの中にいいなと思う人がいた。その人は、ノリムラさんといって、いつも飄々とした雰囲気の、いで立ちからしてミーアキャットみたいな感じの人だった。ただ、ノリムラさんには彼女がいたのでそこから先は何も起きなかった。ただ、ノリムラさんと出勤が被る日は、ホールの通路の端っこに立ちながら、働くノリムラさんを目で追いながらバイトを続けていた。

そして、ノリムラさんと同い年くらいの人で、ウエダさんという人もいた。ウエダさんはサッカー少年で、いかにもサッカー少年という感じの独特のフットワークの軽さみたいなものを持ってる人だった。

ウエダさんについては、私と同じコーヒーレディーをしていたタカノちゃんがずっと想いを寄せている人だった。タカノちゃんは私が入る前からコーヒーレディーをしていて、私が話を聞く限りではウエダさんのことがだいぶ好きな様子だった。たしか私が知っているだけでも2回くらいは告っていたんじゃないかと思う。

しかし、ウエダさんには同棲をしている彼女がいて、タカノちゃんの恋は結局最後まで実らずじまいだった。でもタカノちゃんはやっぱりウエダさんのことが好きな様子で、なんとも悩ましい状態が続いていた。

ウエダさんはジャニーズのイノッチみたいな見た目で、誰とでも気さくに話す人であり、そういうところがウエダさんの魅力だった。タカノちゃんが好きになる気持ちもよくわかる感じの人だった。そんなわけで、ウエダさんは私にも気さくに話かけてきてくれたりもして、まぁバイトはそれなりに楽しく続けていた。

基本的には土日を中心に働いていたが、平日でも入れる日があれば遅番で入ったりとかして、結構働いていたので、私の引越し資金のための貯金も少しずつ貯まっていっていた。

ひとめぼれ

そんなある秋の日のことだった。土曜日、大学のない日。いつものように朝バイトに行ったら、パチンコ屋のホールに見知らぬ男の子が働いていてた。

私は彼を見た瞬間に恋に堕ちた。理由は単純明快、顔が当時の私にとってめちゃくちゃタイプだったからだ。

その男の子はクジくんと言って、私と同い年だった。ウエダさんが教育係だったようで、ウエダさんとよく喋っていて、クジくんもまた明るい性格というか、ある意味いい加減というか誰とでも適当に話せるような性格のようで、前からいるパチンコ屋の人ともすぐに打ち解けていた。

今となってはどうやって私がクジくんと距離を詰めていったのか記憶が定かではないが、私はウエダさんから情報収集をしつつ、クジくんと少しずつ話すようになった。まずは同い年であるというところから始まり、あとはクジくんはフリーターだけど、夜はクラブでDJをやっていて、ドラムンベースというジャンルのDJをやっているという話も聞いた。

当時、私たち芸大仲間周辺ではいわゆる「ロキノン系」、つまりは雑誌「ROCKIN'ON JAPAN」に載っているようなアーティストが流行っており、洋楽を聴いてるか、ロキノン系のアーティストを聴いているかという感じで、聴いてる奴はだいたい友達、男子は結構DJやってます、女子は結構ライブ行ってます、みたいなノリだった。

で、ロキノン系の中でも、私はとくに「スーパーカー」を筆頭に「くるり」「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」「ナンバーガール」「ゆらゆら帝国」などなどが好きで、クジくんは私が当時一番大好きだった「スーパーカー」のボーカルの中村弘二(通称:ナカコー)にそっくり……とまではいかないが、かなり同系統の顔立ちだったのだ。

しかも当時のスーパーカーくるりオルタナティヴ・ロックというギター・ベース・ドラムを中心とした従来のロックバンドの方向性からエレクトロニック(クラブミュージック的な感じ)の方向に向かっている時で、私にとってナカコーのような顔をしたDJをやっているクジくんはまさにどストライクな存在なのであった。