エド&リーのブログ

未亡人に憧れるゴーストライター。深海魚のような仲間を探しています。結論の出ない話多めです。

コーヒーレディーはマルドロールを駆け抜けて⑤

前回の話↓

edoandlee.hatenablog.com

パチンコ屋と在日

コーヒーレディーとしての初出勤日。店には社長と奥さんと先日の面接にいたお姐さん(アライさん)と、太っているけどチャーミングなアオキさんという女性がいた。男性を数名殺人したのちに獄中死した死刑囚がいたが、アオキさんはイメージとしてはそんな感じの人だった。

パチンコ屋の2階は寮になっていて、従業員用の食堂と個室が10室くらいはあったと思う。私はその一室で奥さんから制服を渡され、着替えた。

制服はユニクロの真っ白なスキッパーシャツと、同じくユニクロのまぁまぁミニ丈のライトグレーのキュロットスカート。そして奥さんお手製のエプロンだった。

奥さんお手製のエプロンはなかなかよくできたデザインというか、既製品のようにとにかくよくできていた。上はバーテンダーが着ているベストのようになっていて、下は控えめなフリルのついた腰で結ぶタイプのエプロンだった。エプロンの前には大きなポケットが2つついていて、赤のチェック柄。AKB48の制服のようなイメージのものだった。

別段エロい格好というわけではないが、上下黒のストライプのパチンコ屋の人たちの制服よりは全然可愛かった。靴下はどんなのを履いていたのか何回思い出そうとしても思い出せない。靴はグレーのニューバランスだったのは覚えている。

制服に着替えると皆口々に「似合うねぇ~!」と褒めてくれた。私は身長167cm、体重は当時で52キロくらいだったので、まぁ自分でいうのもなんだけどスタイルは悪くない方だった。子供を産んでからは見る影もなくなったが、当時はよく胸が大きいと言われていたので、まぁ似合っていたのだろう。

制服に着替えて、開店前のパチンコ屋のホールの入り口入って右手側にあるコーヒーコーナーに行ってから、店内を挨拶に回った。パチンコ屋の社長はいなかったが、店長は優しそうな人で、あとはマネージャーとかチーフとかリーダーとか色々な担当に分かれているようだった。

皆「おっ!新しい子やね!よろしく!」みたいな感じで温かく迎えてくれた。パチンコ屋の店員の人たちも基本的にワケあり感のただよう人たちではあったが、「よろしくね!」みたいな感じで、みんな休憩室で思いっきり煙草をふかせながら微笑みかけてくれた。全員感じが良かった。特に女性の店員さんは「なんでこの人たちこんなところで働いているんだろう」と思うほどの美人ばかりだった。

しばらくしてからわかったことだが、平野区という土地柄もあり、そのパチンコ屋の従業員は在日朝鮮人率が高かった。社長も奥さんもアライさんもアオキさんも一緒に働いていたタカノちゃんもキノシタちゃんも、今思えばみんなそうだったと思う。いわゆる通名ってやつだ。実際にホールで働いた男の子やチーフも韓国の人の名前だった。ホールで働いていたある男の子はほとんど日本語が喋れなくて、いかにも韓国人の男の子っていう顔をしていて、とりあえずいつも笑顔で接してくれて優しかった。日本人の女性が韓国人の男性にハマるのもなんとなくわかる気がした。

彼らが在日だからって別に何がどうということはなかったが、当時の私は「なんでタカノちゃんの本当の名前は『高〇〇』なのにタカノって言ってんだろう。高でいいやん」というなんともいえないちょっとしたモヤモヤ感を抱いていたように思う。

世の中には在日の人を嫌う人もいるし、実際色々ないざこざがあることも知っているが、私の周りの人たち単体で見る限りは、特に私のような普通の日本人と変わりはないように思えた。まぁちょっと感情的になりがちなところはあったかも。でも情にもろくて親切で、基本的に優しい人たちが多かった。なお、今でもそのイメージはあまり変わっていない。

ランウェイ

コーヒーの作り方なども教わったが、アオキさんとアライさんから何より先に教え込まれたことは、ホール内での歩き方だった。パチンコ屋に入ったことのある人ならわかると思うが、パチンコ屋は言ってみればちょっとした畑みたいな感じで真っ直ぐに台が並んでいて、台と台の間に通路がある。私が働くことになったパチンコ屋Mはそれほど大きな店ではなかったので、歩く距離に関してはさほどたいしたことはなかった。

歩くときは、まず通路の端っこに立って、ホールで働く店員さんがいないことを確認する。店員さんが台を調整したり玉を運んでいるときには通ってはいけない。

誰もいなくなったら、一礼をして、台と台の間の通路を歩き、また最後に振り返って一礼をする。その繰り返し。

お客さんがこっちを見ていないか、手を上げて合図をしていないか確認しながら歩く。

歩くときは、背筋を伸ばして、胸を張って、ゆっくりと。

まるでそれはモデルがランウェイを歩くかのごとく。

パチンコ屋はめちゃくちゃうるさいので「コーヒーいかがですか」とかは別に言う必要はなかった。ただ黙ってうるさくて煙草の煙が充満した店内を声がかかるまで歩くのみだ。

それまで私は背の高いことが割とコンプレックスで猫背気味だったが、アオキさんの指導のおかげで背筋が良くなった。あれから20年以上経った今でもその癖は身についたままで、そこは結構感謝している。

そして、初日にアライさんに言われたこと「ありがとうございますは何度言ってもいい言葉だから、何度でも言いなさい」――。

その言葉は、なんだか私の心に刺さった。しつこく「ありがとう」って言われたらウザく感じる人もいるかもしれないけど、なんだかいい言葉だなと思って、今でも大事にしている。

そんなこんなで、私のコーヒーレディーとしての日々が始まった。